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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)3119号 判決 1981年2月24日

控訴人 遠藤与十

右訴訟代理人弁護士 河野富一

被控訴人 遠藤曹司

右訴訟代理人弁護士 高山幸夫

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

被控訴人は控訴人に対し別紙物件目録記載の土地上にある原判決別紙乙物件目録(一)記載の建物及び工作物を収去して右土地を明渡せ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴人代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  当事者双方の主張

一  原審昭和五一年(ワ)第一七三号事件(以下「甲事件」という。)

1  被控訴人の請求の原因(原審における予備的請求)

被控訴人は、昭和四七年三月ころ、伯父である控訴人との間において、洋弓場を経営するため、控訴人から別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を無償で借り受けることを約して、右土地の引渡を受けた(以下、この契約を「本件契約」という。)。しかるに、控訴人は、被控訴人に対して右土地の返還を請求し、被控訴人の権原を争うので、被控訴人は、控訴人に対し、右契約に基づき右土地を使用する権利を有することの確認を求める。

2  控訴人の答弁

請求原因のうち、本件契約成立の時期を除き、その余の事実は認める。契約の成立は昭和四八年七月ころである。

3  控訴人の抗弁

(一) 本件契約は、被控訴人が本件土地を真摯かつ継続的に洋弓場として使用し、そこから生計の資を得る間に限り存続する旨を約し、したがって、被控訴人が洋弓場の経営を廃止し又はその成功の見込みがなくなる時を終期と定めたものであるところ、被控訴人は、洋弓場の経営が不振で、昭和四九年一一月ころ、右営業をやめ、本件土地の使用を廃止したので、本件契約は期限の到来により終了した。

(二) 仮に本件契約に期限の定めがなかったとしても、本件契約は、被控訴人が本件土地を洋弓場として使用することを目的とするものであるところ、被控訴人は、昭和四九年一一月ころ、洋弓場の経営を廃止し、したがって、契約の目的に従った使用収益を終えたので、本件契約は終了した。なお、被控訴人は、その後現在に至るまで洋弓場を再開せず、施設を荒廃に委せているので、再開の意思及び能力がないことは明らかである。

(三) 仮に右主張が理由がないとしても、被控訴人は、訴外吉村正夫に洋弓場の営業権とともに本件土地の使用権を譲渡したので、控訴人は、被控訴人に対し、昭和五一年四月一六日付、同月一九日ころ到達の書面をもって、本件契約を解除した。

4  抗弁に対する認否

(一) 抗弁(一)は否認する。本件契約には期限の定めはなかった。

(二) 同(二)のうち、本件契約が被控訴人の洋弓場としての使用を目的とするものであることは認めるが、その余の事実は否認する。被控訴人は、昭和五二年末ころまで洋弓場の経営を続け、その後運営資金の関係から一時営業を中断しているものの、施設の保存に留意し、顧客の確保を図っていて、営業を再開する予定である。

(三) 同(三)のうち、解除の意思表示の到達の事実は認め、その余の事実は否認する。

二  原審昭和五一年(ワ)第一七五号事件(以下「乙事件」という。)

1  控訴人の請求の原因

(一) 控訴人と被控訴人との間に、控訴人所有の本件土地について甲事件請求原因記載のとおり(契約の時期を除く。)本件契約が成立した。

(二) 本件契約は、甲事件抗弁(一3の(一)ないし(三)記載)の各理由により終了した。

(三) 被控訴人は、原判決別紙乙物件目録(一)記載の建物及び工作物(以下「本件工作物」という。)を本件土地上の同目録添付図面表示の各位置に設置、所有して、本件土地を占有している。

(四) よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件土地の所有権又は本件契約の終了に基づき、本件工作物を収去して本件土地を明渡すよう求める。

2  被控訴人の答弁

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)については、前記一4のとおりである。

(三) 同(三)の事実は認める。

第三  証拠関係《省略》

理由

一  被控訴人が、伯父である控訴人との間において、本件土地を洋弓場経営のために無償で借り受ける旨の合意をして、右土地の引渡を受けた事実(本件契約の成立)は、当事者間に争いがない。《証拠省略》によれば、本件契約成立の時期は昭和四七年春ころであると認められ(る。)《証拠判断省略》

二  《証拠省略》を総合すれば、被控訴人は、洋弓場経営のためにのみ使用しうる約定で本件土地を借り受けたのち、地上に事務所、射場等の施設(本件工作物)を設置して昭和四七年八月ころから洋弓場の経営を開始したが、同四九年ころから次第に利用客が減少して経営困難に陥り、同五一年ころまでは冬期間を除いて細々と営業を続けていたものの、同五二年末ころには全く営業を止め、以来右施設は荒廃するに委せていること、現在においても、被控訴人は、営業再開の希望を全く失ってはいないが、荒廃した施設を復旧整備する費用や運転資金を調達する目途がつかず、営業を再開する具体的な見込みが立っていないこと、以上の事実が認められる。《証拠省略》中、昭和五四年ころまで営業を続けていた旨の部分、並びに《証拠省略》中、営業の再開、継続の見込みがあるごとく述べる部分は、その余の前掲各証拠に対比して、信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によれば、本件契約は、もっぱら洋弓場として本件土地を使用することを目的として成立したものであるところ(洋弓場としての使用を目的とすることは当事者間に争いがない。)、被控訴人は、洋弓場の営業を休止して、長期間を経過し、営業再開の見通しが全くついていないのであるから、被控訴人の願望は別として、客観的には事実上営業を廃止した状態となっているものとみるほかはなく、したがって、契約の目的に従った使用収益を終わったものと認めるのが相当である。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件契約は、民法第五九七条第二項本文により、終了したものというべきである。

三  右に判断したところによれば、被控訴人は、本件契約に基づき本件土地を使用する権利を有しないものであるから、その確認を求める被控訴人の甲事件請求は理由がない。

四  被控訴人が本件工作物を控訴人主張の位置に所有して本件土地を占有している事実は、当事者間に争いがない。

したがって、本件契約の終了を理由に本件工作物収去、本件土地明渡を求める控訴人の乙事件請求は理由がある。

五  よって、原判決は、失当であるから、これを取消し、被控訴人の甲事件請求を棄却し、控訴人の乙事件請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小河八十次 裁判官 内田恒久 野田宏)

<以下省略>

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